にじのはしスペイクリニック院長 高橋先生インタビュー

同志社大学4回生の下野です。昔から猫を中心とした動物が大好きで動物愛護活動に携わりたいと思い、「わんむすび」でのインターンに参加しました。こちらで学校動物飼育や多頭飼育問題、野良猫のTNR活動などを調べています。

わんむすびで多頭飼育問題について学ぶ過程で、問題解決のためには避妊去勢の促進が特に重要であると知りました。京都だけではなく地元である岐阜での取り組み事例を調べる中、動物病院で野良猫の不妊去勢手術を積極的に行い、院長先生自らが全国的に啓発活動を行う「にじのはしスペイクリニック」の活動を知りました。ぜひ活動内容や大切にしていることを詳しく聞きたいと思い、今回院長の高橋葵先生にお話を伺ってきました。


簡単に『にじのはしスペイクリニック』はどういった活動を行っているのか教えてください。

高橋先生:スペイクリニックとは不妊去勢を専門的に行っている動物病院を指していますが、当院は野良猫や保護猫の不妊去勢手術を専門としており、一日20匹程度の手術を行うことが可能です。猫を保護する方法は引き取り手を探す、保護して世話をするなどたくさんありますが、私は特に『これ以上猫を増やさない』という猫の過剰繁殖問題に注目し、そちらを解決するためにTNR活動を行っています。

こちらのクリニックの他とは違った特徴はなんでしょうか?

高橋先生:一つ目は『機動性がある』という点です。診療はこちらの病院だけではなく、移動式手術室も使用しており、場所にとらわれずに効率よく手術を行うことができます。また地域のコミュニティとも連携が取りやすくなり、より地域に根ざした解決法を導くことが可能になります。二つ目は『啓発活動を積極的に行っている』という点です。猫の過剰繁殖問題について知ってもらうために、講演会やセミナーに参加したり、地域の小中学生に向けて手術室の見学会などを行ったりしています。

 

今の活動を始めたきっかけをお伺いしたいです。

高橋先生:私はもともと公務員獣医師として11年間仕事をしており、その中で野良猫の騒音や糞尿の被害に悩まされている人や多くの猫が殺処分されていく現状を見てきました。今の行政では動物と人両方が幸せになるような方法を実施していくのはとても難しいと感じたんです。例えば猫が増えすぎて困っている、と相談を受けても、実際に解決することはなくアドバイスをすることしかできませんでした。そのような経験を経て、猫のTNR活動により力を入れた仕事がしたいと思い、活動を始めました。

活動に必要な人や資金集めで工夫されている点はなんですか?

高橋先生:主に行政に対してですが、『成功例を提示する』ということは大きなポイントですね。前例がないと活動がうまくいくのか、結果どうなるのか不安に思う人も多いので、他地域の事例を積極的に紹介するようにしています。またこの活動はどうしても猫が注目されてしまいがちですが、野良猫や過剰繁殖された猫がもたらす公衆衛生問題や騒音問題を提示することで、TNR活動が結果的に人間社会に良い影響を与える、ということをしっかりと示すと、共感が得やすいと感じています。

ご自身の仕事の啓発活動で、工夫されていることはなんですか?

高橋先生:興味を引くような、あっと言わせるような情報を提示することです。例えば猫の繁殖能力についてですが、猫は年に多いと4回発情期を迎え、一回に4~8頭の子猫を産みます。このペースで増え続けると、一頭の雌猫が3年後には2000頭を超えてしまいます。このように具体的に過剰繁殖の実態を数値で表すと、問題意識を持つ方がたくさんいます。自身の活動についてですと、移動式手術室を用いた出張治療というのは少し特殊なので、興味を持っていただける場合が多いです。

多頭街飼育問題で特に目立つ原因はなんでしょうか?

高橋先生:やはり猫の繁殖能力を甘く見ていることだと思います。いわゆる猫屋敷に住んでいる人の多くは、増やそうと思っているわけではありません。いつの間にか猫が繁殖してしまい、気が付いたら手の施しようがなくなっていた、という場合がほとんどです。そうならないために不妊去勢手術は本当に大切なのですが、雌猫は4ヶ月の時点ですでに妊娠できるということを知らない人も多く、手術を先延ばしにしてしまいがちです。猫がいかに増えやすいかという認識をしっかり持ってもらうことが、問題解決に一番有効な方法だと思います。

このような活動はボランティアの方への負担が大きいと聞きますが、この問題についてどうお考えですか?

高橋先生:現状日本では動物の保護活動は無償で、ボランティア活動として行われている方が多いと思います。しかしなんでも無料で引き受けてしまうことは保護活動の価値を下げてしまうことになり、動物の命を下げてしまうことにつながります。実際「猫の保護ぐらいどうして無料でやってくれないのか」ということを言われたという話を聞いたことがあります。『お金を払ってしてもらう活動』だという認識を広めていくことで、それだけ価値ある活動だと考えていただけるようになり、最終的に犬猫の命の価値を高めることや持続可能な活動へと繋がっていくのではないかと思っています。

一般住民にもこういった活動に協力できる点はありますか?

高橋先生:TNR活動は『猫を保護する』『実際に手術を行う』だけではありません。私の目標はこの活動を全国に広めていくことですので、例えば場所を提供していただけると、より地域と連携した活動が行いやすくなります。時間はないけれど金銭的な余裕がある、という場合は、自身がぜひ協力したいと思う活動を探して寄付を行うことも力になります。学生であれば、学んでいる分野を活かした問題点の分析や情報の発信なども可能ですね。また同じく学生への啓発活動を行う際に、『刺さりやすい情報』を見極めることができるという点も大きな強みだと思います。

 

以上が今回高橋先生にお伺いした内容です。

長年啓発活動を行って来られた先生だからこそ、どのような情報を発信していくべきかを非常に大切にしているのだなと感じました。ボランティアそのものに対する考え方はどの動物保護活動にも当てはまる話であり、今回お聞きできた話は、限られた範囲だけではなく様々な分野に応用できると思います。また質問をする中で、どんなことでも一つ一つ丁寧に答えてくださる姿やこれからしたいことを熱心に語る姿から、啓発活動に真摯に向き合う高橋先生の熱い思いを非常に感じることができました。

活動の詳しい内容だけではなく、何を大切に活動しているのか、活動にと参加できなくても一人一人にできることはあるのか、といった多くの活動に生かすことができる話まで聞くことができ、非常に有意義な経験となりました。
高橋先生、お忙しい中本当にありがとうございました。