皆様は「栄光のバックホーム」という本をご存知でしょうか?
昨年映画化された、元阪神タイガースの横田慎太郎氏の生涯を描いた作品で、観られた方からは感動の声が多数寄せられています。
私も映画で感動した一人ですが、若者のキャリア形成のお手本になる話が多数あったので説明いたします。
「やりたいこと」から「求められること」へ(自律の進化)
若者はしばしば「自分のやりたいこと」が見つからずに立ち止まります。 横田氏が脳腫瘍によって、「絶対プロ選手になるんだ」と人生を賭けて有言実行した野球という道が絶たれた後も、周囲の声に素直に耳を傾け、新しい「自分の役割」に挑み続けました。
わんむすびでは、その「素直さ」と「真摯さ」を非認知能力の核と捉えています。 解説や講演、YouTubeなど、周囲(川藤氏ら)からの期待に「素直」に応じて自分の可能性を広げた姿は、「やってほしいこと」を聞きながら「できること」を増やすという、幸せなキャリアを築く目標となるでしょう。
「やり抜く力」が「好き」を後から作る
横田氏は、病によって「やりたかったセンターの守備」や「思い切ったバッティング」を奪われました。しかし、彼は絶望して足を止めるのではなく、「今の自分にできる練習」「今の自分にできる走塁」を一生懸命やり抜きました。
最初から100%好きな仕事に出会える人は稀です。しかし、目の前の課題を「少し頑張ればできる目標」と設定し、やり遂げる過程で、技術が身につき、周囲の信頼が得られ、それが結果として「仕事への愛着」に変わる。横田氏の人生は、その真理を証明しています。
生存者バイアスへのアンチテーゼとしての「22.2メートルの奇跡」
「好きなことだけやれば良い」という言葉は、一見ポジティブですが、実は強者の論理、あるいは結果を出した者だけが言える「生存者バイアス」に過ぎません。多くの若者がその言葉に踊らされ、壁にぶつかった時に「自分には才能がない」「好きなことではなかった」と梯子を外された気分になり、立ち往生してしまいます。
「勝ち組」の言葉は、挫折した瞬間に効力を失います。しかし、横田氏が引退試合で見せたあのバックホームは、視力が落ち、思うように体が動かないという「制約」の中で、自分にできることを積み重ねた結果として生まれたものです。脳腫瘍の影響でボールが見えず、気持ちが折れそうになっても、できる努力を重ねた姿を監督やコーチ陣、チームメイトなど周りが見てきたからこそ、あの引退試合の感動につながったのです。
「大人たちが梯子を外さない」ことの重要性
なぜ横田氏が多くの仲間の心の中で「あの人と一緒にやってよかった」と思い出されるような存在になったか。それは本人の努力に加え、阪神タイガースの「大人たち」が、彼の「一生懸命」を見抜いて、居場所を守り続けたからです。金本元監督の「居場所を作る決断」、矢野元監督の「選手の可能性を信じる姿勢」、平田元監督や秀太コーチの「現場で泥にまみれて寄り添う教育」。指導者(プロ)が若者の可能性を信じ、小さな変化や成長を褒め続けることで、時に奇跡が起こる。映画では「一人の志が、いかに周囲を動かし、チーム全体の柱となっていくか」という視点での学びもありました。
阪神タイガースの首脳陣が、病を抱えた横田選手の背番号を空け、練習の復帰を信じて待ち続けたように。 私たちが求めるプロフェッショナルは、若者が失敗した時に真っ先に梯子を外す人ではなく、「次に登り直すための梯子」を黙って支え続ける人です。わんむすびでは動物愛護を通じて「人の成長を待つ」というリスクを取りながらも、梯子を外さずに人の潜在能力を引き出せる機会作りに取り組みます。
